よく噛んで食べることは、美味しい食事を楽しむだけでなく、体全体の健康にも影響します。
特に、体が弱くなりがちな老後は、お口の健康がとても重要です。
歯を失ったとき、インプラントを考える人が多いですが、「老後にインプラントは良くない」という話を耳にして、インプラントの治療を躊躇されることがあります。
この記事では、老後にインプラントは良くないのかどうか、その疑問にお答えし、老後にインプラントを使うことのメリットやデメリット、そして失敗しないための注意点について解説します。
老後のインプラントのデメリット
老後のインプラントが悲惨になると言われる理由となる、インプラントのデメリットを解説します。
- 外科手術が必要
- 治療費が高額で治療期間が長い
- 継続的なケアやメンテナンスが必要
外科手術が必要
インプラント治療とは、失った歯の代わりに人工の歯根を顎の骨に埋め込む外科手術です。インプラントの手術は入院が必要なく、インプラント1本の実質の手術時間は15分から30分程度です。ただし、体力や持病によっては、治療が受けられない場合もあります。
手術には局所麻酔が必要なため、麻酔に対するリスクを考える必要があります。特に高齢者は、心臓や肺に負担がかかる可能性があるので注意が必要です。
手術後には、痛みや腫れ、感染症のリスクがあります。高齢者は免疫力が低下していることが多いため、感染症にかかりやすく、回復が遅くなることがあります。
さらに、インプラント手術を受けるには、全身の健康状態が良好であることが求められます。高血圧や糖尿病などの慢性疾患を持つ方は、手術を受けられない場合もあります。
これらの理由から、老後にインプラント治療を受ける際は慎重な判断が必要です。手術前に、かかりつけ医や歯科医師と十分に相談し、自分の健康状態に適した治療法を選ぶことが重要です。
治療費が高額で治療期間が長い
自由診療であるインプラント治療の費用相場は歯1本あたり30~50万円と高額です。また、高齢になると顎の骨が痩せ、インプラントを行うためには骨を増やす治療が合わせて必要になる場合が多くなります。
対策としては医療費控除があります。インプラント治療は医療費控除の対象です。所得等により変動しますが、費用の一部が還付されることがあります。
[医療費控除とは]
1年間に払った医療費から保険金などで補填される額を引いた金額が10万円を超えた場合(総所得が200万円未満の場合は総所得の5%)に最大200万円の控除を受けられる制度です。
治療期間については、インプラント治療は、インプラントが骨と結合するまでの期間が必要であり、入れ歯やブリッジと比較すると長くかかります。
継続的なケアやメンテナンスが必要
インプラント治療には継続的なメンテナンスが必要です。そのため、認知症などで介護が必要になった場合のことを考えると、不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
インプラントは虫歯にはなりませんが、歯周病に似たインプラント周囲炎にはなります。ご自身の歯と同様にケアが必要です。
・入れ歯の場合は、取り外しの手間がかかり本人が拒否してしまったり、痛みが出たりすることがありますが、
・インプラントの場合は、他の歯(残っている歯)と同じように介助者が歯ブラシでケアできるのは、メリットの一つです。
老後のインプラントが悲惨にならないための対策
老後のインプラントが悲惨にならないためには以下の3つの対策が大切です。
- 事前にメリット・デメリットを把握する
- 実績が豊富な歯科医院を選ぶ
- メンテナンスを怠らない
それぞれ以下で詳しく解説します。
事前にメリット・デメリットを把握する
治療後に
「こんなはずじゃなかった」、「思っていたのと違う」 とならないように、インプラントの知識を深めることが大切です。
インプラント治療の前には、様々な検査、診察、カウンセリングがあります。その際に歯科医師からの説明をよく聞き、よくわからないことや不安なことがある場合は必ず歯科医師に相談しましょう。安心して治療を受けられるだけでなく、治療前後でのギャップも未然に防げます。
実績が豊富な歯科医院を選ぶ
インプラント治療は、歯科医師の知識や技術、経験によって満足度に大きな差が出る治療のため、実績が豊富な歯科医院を選びましょう。
特に高齢の方は持病があったり、骨が弱くなっていたりする可能性が高いため、治療の可否の見極めから十分な知識を持つ歯科医師の判断が必要です。
高齢でも安心してインプラント治療を受け、その後の人生をより豊かなものにするためには実績が豊富な歯科医院を選ぶことがおすすめです。
メンテナンスを怠らない
インプラント治療後にメンテナンスを怠ってしまうと、インプラント歯周炎などのトラブルを起こしかねません。
3か月〜半年に一度、歯科医院でメンテナンスを受けることも大切ですが、日ごろのセルフケアも非常に大切です。
セルフケアはインプラントに限ったことではありませんが、ブラッシングケアの指導を受けて正しい磨き方を習得して実践し、口腔内の健康を保つように心がけましょう。
老後のインプラントのメリット
インプラント治療には「外見を若々しく保てる」「食事を楽しめる」などの様々なメリットがあります。それぞれ以下で詳しく解説します。
- 外見を若々しく保てる
- 食事を楽しめる
- 入れ歯と比較して管理しやすい
- 誤嚥性肺炎を予防できる
外見を若々しく保てる
歯を失ってしまうと、口周りがすぼみ、老けた印象になることが多いです。歯がなくなると、歯を支えていた骨の部分まで失われていくので、よりしぼんでしまいます。
インプラント治療は顎の骨に人工の歯根を埋め込む治療のため、顎の骨が失われていくことを防ぎます。また、インプラント治療をすることで、しっかり噛むことができるため自然に頬や口元の筋肉が鍛えられます。
また見た目も自然で、入れ歯のようにずれることもないので、会話中に口元が気になることもなくなるでしょう。
食事を楽しめる
第二の永久歯ともいわれるインプラント治療をすると、食事が楽しめるようになります。
インプラント治療後はどんな食べ物でもしっかりと噛むことができるため、基本的に食事制限はありません。
入れ歯の場合は口腔内の粘膜が覆われるため、食べ物の温度を感じにくかったり入れ歯と粘膜の間に食べものが挟まったりします。そのため、食事中にストレスを感じることもありますが、インプラントの場合はそのようなことがないため入れ歯と比べると食事中のストレスも軽減されます。
入れ歯に不満がある方や、いつまでも食事を楽しみたい方にはインプラント治療がおすすめです。
入れ歯と比較して管理しやすい
インプラントは入れ歯と比べて管理しやすいため、本人はもちろん、介助をする周りの方にとっても管理の負担が少ないです。
入れ歯は取り外して、入れ歯本体もお口の中もケアをする必要がありますが、インプラント治療は取り外しの必要がありません。
また、入れ歯は紛失したり飲み込んでしまうリスクがありますが、インプラントの場合は飲み込みなどのリスクもありません。
認知症予防にもつながる
よく噛んで食事をすることは、たとえ自分の歯ではなくインプラントであっても認知症の予防につながります。
歯がほとんど無く、義歯やインプラントなど代わりの歯の治療がなされていない場合、認知症の発生リスクが最大1.9倍になると報告されています。
歯を失い、義歯を使用していない場合、認知症発症リスクが最大1.9倍に
(e.g. yamamoto et al. psychosomatic medicine 2012)
歯数・義歯使用と認知症発症との関係
噛むことができなくて脳への刺激が減ったり、噛めないことで食事摂取量が減って栄養不足になったりすることは認知症が発症する要因です。
また、口から食べることで視覚や味覚、嗅覚が刺激されることも脳に良い刺激となります。
自分の歯を失ったとしても、インプラント治療をすることでしっかり噛んで食事をする機能を取り戻すことは認知症以外にも全身の健康に影響します。
誤嚥性肺炎を予防できる
誤嚥性肺炎とは、本来器官に入ってはいけないものが器官に入ることで生じる肺炎で、70歳以上の入院を伴う肺炎のうち約80%が誤嚥性肺炎です。
具体的には歯を失って噛む力が低下し、喉や舌骨の位置が下がってしまうことで飲み込む力が弱くなり、食べ物が誤って器官に入ってしまったりするためです。
また、入れ歯の手入れが行き届かずお口に雑菌がたまり、唾液や食べ物と共にその雑菌が肺に入ってしまうことで、誤嚥性肺炎が発症してしまったりします。
インプラントは噛む力を取り戻すことはもちろん、入れ歯よりもケアをしやすく清潔を保ちやすいため、誤嚥性肺炎のリスクを抑えることができます。
本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎。
e-ヘルスネット 厚生労働省 誤嚥性肺炎
老後にインプラントをする注意点
インプラント治療は食事を楽しめるようになるだけでなく、若々しい外見を保てたり認知症や誤嚥性肺炎の予防にもなるという魅力がある一方で、注意するべきこともあります。
- CTのある歯科医院をえらぶ
- かかりつけ医に相談する
- 持病や治療歴は伝える
それぞれ以下で詳しく解説します。
CTのある歯科医院を選ぶ
インプラント治療を受ける際は、CTを完備した歯科医院を選ぶことが大切です。CTを使用することで、顎の骨や神経の状態を詳しく把握できます。特に高齢者の場合、歯周病や骨粗しょう症の影響で顎の骨が弱っていることが多いため、CTの必要性が高まります。
骨の量や厚みを正確に診察しないまま治療を行うと、神経を損傷するなどの事故に繋がる恐れがあります。
かかりつけ医に相談する
外科的治療であるインプラント治療は、糖尿病や高血圧、心臓病などの持病がある方は受けられない場合もあります。
持病がある場合には、必ず事前にかかりつけ医に相談をしましょう。
場合によっては、現在内服している薬を中断するなどの対処を行うことでインプラント治療を受けられたり、身体の状態によっては問題なくインプラント治療を受けられる可能性もあるため、かかりつけ医との連携はとても重要です。
持病や治療歴は伝える
インプラント治療は持病によっては治療できないこともあるため、持病や治療歴、飲んでいる薬は必ず歯科医師に伝えましょう。
持病や治療歴を伝えられないまま治療をしてしまうとトラブルに繋がりかねません。
また、持病がなくても気になる症状がある方は、早めに病院受診をしたり健康診断を受けたりすることをおすすめします。
安全にインプラント治療を受けるためには事前に持病を伝えることや、気になる症状がある場合には受診をするなどして現状を把握することが重要です。
インプラントと老後のケア・治療に関するよくある質問
インプラントと老後のケア・治療に関するよくある質問は以下の3つです。
- インプラントはどのような人がしない方がいいですか?
- インプラントは何歳まで大丈夫?
- インプラントが寿命を迎えたらどうしたらいいですか?
それぞれ詳しく解説します。
インプラントはどのような人がしない方がいいですか?
インプラント治療は全ての方に適しているわけではありません。
重度の糖尿病の方や、骨粗しょう症の方、処方されている薬によっては、インプラント治療ができないと判断されることもあります。
また、インプラント治療後は口腔内のケアをしっかりと行うことが大切なため、歯磨きを怠る方や定期的なメンテナンスに通えない方にはインプラント治療をおすすめしません。
インプラントは何歳まで大丈夫?
インプラント治療が可能な年齢の上限は特にはありません。80歳でも全身状態が良好で安全に治療が行えると判断できればインプラント治療は可能です。
インプラント治療を行う上で必要なことは、外科的手術に耐えられる体力、持病の有無などの全身状態、顎の骨の量と質です。
健康状態や口腔内の状態は個人差があるため「高齢だからできないかも…」「今更遅いかな…」と諦めずに、インプラント治療を検討されている方は一度ご相談ください。
インプラントが寿命を迎えたらどうしたらいいですか?
インプラントの寿命は一般的に10~15年と言われています。
寿命を迎えた際の状況として、インプラントの上の歯の部分(上部構造と呼ばれます)が割れた場合は、インプラント本体はそのままで、歯の部分のみを作り直すことができます。インプラント自体にぐらつきや、周囲に炎症がある場合は、インプラントの除去をします。その後は、もう一度インプラント治療を行うか、入れ歯をいれるなどの再治療が必要になります。
インプラントを正しく理解して治療を判断しましょう
インプラント治療は、高額であることや継続的なメンテナンスが必要であることから「老後のインプラントは悲惨」という声もあります。
しかし、認知症や誤嚥性肺炎の予防にも繋がるインプラント治療は、高齢の方にもおすすめしたい治療のひとつです。
認知症や誤嚥性肺炎の予防になるだけでなく、噛む力を取り戻すことで食事を楽しめるようになったり、若々しい見た目を取り戻して笑顔に自信を持てるようになったりするため、老後の人生がより豊かになります。
たくさんのメリットがある一方で、気を付けなければいけないことがあるのも事実です。
持病がある方などは治療が受けられない可能性もありますし、外科的治療を受けるための体力を要します。
そのため、持病がある方や体調面で不安がある方は、インプラントの実績が豊富な歯科医院を選び、治療を受ける前にはかかりつけ医に必ず相談しましょう。