歯の神経を抜いてしまうと、当然歯の痛みはなくなりますが、「神経を抜いているのに、歯が痛い」といった患者さまがいらっしゃいます。 なぜ、神経をとった歯が痛む原因やその治療方法を説明していきます。
なぜ神経を抜いた歯が痛くなるの?
歯の神経は、歯の中にある組織で歯髄と呼ばれており、この組織は歯の感覚や栄養を運ぶ役割を担っています。 歯の神経を抜くと(抜髄)歯が栄養や水分を吸収できなくなり、歯の質が脆く弱くなるため歯の病気やお口のトラブルを招きやすくなります。
神経を抜いているのに歯が痛い原因
- 歯根嚢胞、根尖病巣
- 歯の破折
- 歯周病の悪化
- 噛み合わせの不具合
各々を説明していきます。
歯の根っこに膿が溜まっている(根尖病巣、歯根嚢胞)
歯の根っこ(歯根)の先端に膿が溜まっていると、歯が痛みます。 痛みを感じているのは歯の神経ではなく、歯の周りの組織です。歯の根元に細菌が入り炎症(根尖病巣)が起こると、歯茎が腫れます。そのまま放っておくと膿が溜まり(歯根嚢包)、ひどくなると、周りの骨を溶かし歯が抜けてしまいます。 このような症状がある場合は「根管治療」を行い治療します。 歯の神経は細く木の根のように張り巡らされています。 神経を取り切れてないと治療してしばらく経ってから、痛みがでることもあり、再度、歯根の中を消毒・掃除をする再根管治療が必要です。 根管治療は難易度が高く保険診療での成功率は50%と言われています。
歯にヒビや割れが入っている(歯根破折)
神経を抜いたのにも関わらず、噛んだ時に歯が痛みが生じる原因は、神経を抜いている歯は劣化しやすく脆くなっているため、歯にひびや割れが生じているからかもしれません(歯根破折)。 歯根破折は、外傷による負担や神経を抜いた後に被せ物する時に設置した土台に強い力が加わり、歯に負担がかかることでも起こります。
歯根破折がおこると歯茎が腫れ、痛みがでてきます。歯の割れ方によって、歯を残せる場合と残せない場合があります。
歯周病が進行している
お口の中の衛生状態が悪いと歯周病が進行します。歯茎が腫れて、歯の周辺で炎症が起こり、痛みが発生します。放置すると歯が抜けてしまいます。
免疫力の低下による歯茎の痛み
寝不足や食生活の偏りで栄養のバランスが崩れている、ストレスが溜まっているなどで、体の抵抗力が落ちてくると、お口の中の細菌が活発に繁殖して、歯周病が悪化し、歯茎が痛くなる時もあります。
噛み合わせが合ってない
噛み合わせが合っていないと歯と歯茎を支えている歯周組織や歯根膜に炎症が起き、歯が痛みます。 噛み合わせがおかしいことで、歯に偏った力が一部分へ掛かります。そして神経を抜いた弱い歯は噛む力に耐えられず、痛みが発生します。歯そのものが痛いのではなく、歯根や歯周組織で痛みを感じています。
神経を抜いた歯なのに痛い時の治療方法
根管治療(根尖病巣の治療)
歯の根っこに膿が溜まっている場合、根管治療で、歯の中(歯根の中)の細菌と患部を取り除き、細菌が侵入しないようにします。 再根管治療の場合は、 前回の治療の器具による歯の根っこの先端に穴があいていたり、根管の形状がより複雑になってしまっていたり、また繰り返しの治療で歯が削られ歯が薄くなっていることなどから、初回の根管治療よりも治療が難しくなる可能性があります。
根管治療の流れ
根管治療は、細菌に感染してしまった歯の神経(歯髄)を取り除き、その穴を封鎖する治療です。 歯根の中を薬剤を使用して、根管内を消毒します。充分に消毒したあと、新たな細菌が入らないように、適切なセメントで封鎖し、被せ物を装着します。 再根管治療の場合は、被せ物をはずしてから、膿や細菌を取り除きます。 消毒は何度も繰り返し行うため、途中でやめずに通院することが大切です。
歯根端切除術 (根管治療で治らなかった時)
根管が詰まっていたり、被せ物が除去できずに歯の内側から治療ができない、あるいは根管治療を長く続けていてもよくならないケースは、外科的に膿の袋(歯根嚢包)を取り出す手術「歯根端切除術」を行います。手術であるため、痛みや腫れが発生する可能性がありますが、通常は数日で治まります。 根管治療で症状が改善がされない場合、多くは抜歯に至りますが、歯根端切除術は、歯を救う最終的な治療手段として位置づけられています。この手術により、抜歯を避け、患者さまの歯を残す可能性がでてきます。 ※歯や根の部位によって処置できない場所があります。
- メリット
歯を残すことができる - デメリット
外科的な処置(手術)が必要
痛みや腫れが発生する可能性がある
治療の手順
- 嚢包の場所を確認します。
- 歯茎に麻酔をして小さく切開をし、そこから膿の袋を取り除きます。
- 原因である感染した歯根の端を1~2mm切断します。 そして特殊な道具で薬をつめるための準備をした後、ProRoot MTAと言われる安全性の高い薬を入れ、細菌の繁殖しやすい部位を密閉します。
- 歯茎をもとに戻して縫合します。治療後、感染していた部分の骨が再生していきます。
当院では、全ての手術行程をマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使って行うことで、非常に高い成功率を維持しています。
根管治療で完治せず、抜歯と言われた時に、歯根端切除術で歯を救えるかもしれません
歯根端切除術の歯科医院選びのポイント
まず、歯科用のCTやマイクロスコープを用いて歯質や亀裂などを細部を検証し、歯根端切除術ができるかどうかを診断できることが重要です。 そしてマイクロスコープで切断面を拡大し精度の高い治療ができることはもちろんのこと、丁寧な説明と治療の過程、術後の経過をみてくれることが重要なポイントです。
- 歯科用のCTやマイクロスコープでの診断
- マイクロスコープを使用しての手術
- 丁寧なカウンセリングとアフターケア
歯根破折の治療
歯の破折は歯にひびや割れが起こっている状態です。歯の破折は自然に治ることはありません。 破折した歯は細菌が入りやすく、炎症を起こしやすく、放置すると炎症は患部からあごの骨に広がり、骨が溶ける恐れがあります。これを防ぐために抜歯に至ることがほとんどです。 しかし、歯が縦か横に割れるか、破損している部分によって、抜歯を避けられることもあります。
歯が深く縦に割れている場合
歯の深い部分で縦に割れていると、修復が困難であるため、細菌の感染や拡大を避けるために抜歯になることが多いです。
歯が水平に割れている場合
歯茎の上で割れている場合は「歯冠長延長術(クラウンレングス)」で抜歯を回避できることがあります。 「歯冠長延長術」は、歯根を引き出し、土台を設置して被せ物をします。破折した患部の状況やお口の中の環境など条件が限られ、適用される治療方法です。
▶歯根破折について ▶やむを得ず歯を失ってしまった時の治療は3つあります
中度・重度の歯周病の治療
歯茎の痛みや腫れの症状がでている時点で、かなり歯周病が進行しています。歯石の除去や歯周病菌に効く抗生剤の服用などの治療の他に、歯茎を切開し歯石を取り除く歯周外科治療で歯茎や歯周組織を改善させます。
噛み合わせの調整
一部の歯に負担がかからないように、歯や詰め物・被せ物を削り噛み合わせを調整し、バランスを整えます。
抜歯での処置
重度の歯周病であったり、歯の根っこが割れてしまっている場合は、抜歯をする可能性があります。 根管治療は歯を残すための治療のひとつですが、 どんなに精密に行っても、状態が改善しない時や根管治療を何度も繰り返し歯根の耐久性が落ち、歯根が破折してしまった時は、やむを得ず抜歯と診断されます。 ▶歯を失ったときの治療方法
神経を抜いている歯は弱くなっています。 痛みが発生した時はすみやかに歯科へ
歯の神経をとっても治療後に痛みが出る原因は、根尖病巣や歯周病の悪化、根管治療の不良、歯根破折などの疑いがあります。そのまま放置していると、どんどん症状は悪化し、歯を失ってしまうかもしれません。 症状がある場合は、すみやかに歯科医院へお越しください。