「インプラントはやめた方がいい?」
実のところはどうなの?
「インプラントはやめた方がいい」と言われたり「後悔する」など、
耳にされることがあるのではないでしょうか?
実際にトラブルなどの報告もあります。
しかし実際に治療を受けた患者様と
治療を受けていない一般の方で認識がわかれている治療でもあります。
出典:公益社団法人日本口腔インプラント学会「データでみるインプラント」
本当にインプラントの治療は患者様にとって
やめておいた方がいいのかどうか、
判断の目安として「知っておいていただきたいこと」を説明していきます。
インプラントはしない方がいいと言われる主な理由
- インプラント手術によるリスクがあること
- 持病など全身の疾患がある場合は難しい
- あごの骨が少ない場合は難しい
- 金銭的な負担が大きい
- インプラントが定着しない場合がある
- 術後、インプラント周囲の炎症や感染が起こるかもしれない
- 金属アレルギー反応が起こるかもしれない
手術によるリスクについて
インプラントの治療はあごの骨に人工の歯根を埋め込むため、
外科手術が必要です。
手術である以上、神経や血管などへの影響が全く無いとは言い切れません。
ただし、
・3DのCTでの精密な検査
・感染対策
・経験豊富な歯科医師による治療
などの点を重視して治療を受ければ
未然にトラブルを回避できる可能性が高く、
過度に心配することはありません。
全身の疾患やあごの骨が少ないと治療が難しい場合について
インプラントの治療ができないと言われる主な理由は2つあります。
- あごの骨が足りない・薄い・小さい場合
- 全身疾患の持病がある場合
土台のあごの骨が少ないとインプラント体を埋入することができません。
あごの骨が不足しているケースは、
インプラントができないと言われる最も多い理由ですが、
骨を増やす治療(骨の造成)を行うとほとんどの場合インプラント治療を
受けていただくことができます。
下記の全身疾患がある患者様は、
インプラントの治療ができない場合があります。
●糖尿病の方
糖尿病の方は免疫力が低下し傷が治りにくいため
感染症などにかかりやすくなっています。
またインプラント体と骨が結合しにくい可能性があります。
しかし主治医の指導のもとで血糖値のコントロールを行い安定している場合は、
インプラントが可能な場合があります。まずは主治医にご相談ください。
●心臓病の方
麻酔を使えない方は、インプラントの手術ができません。
また心筋梗塞や狭心症など
心臓疾患をおこしてから6ヶ月以内の方は、手術で発作を生じさせる可能性があるため半年以上過ぎてから、主治医と歯科医師にご相談ください。
●高血圧症の方
日頃から降圧剤などで血圧をコントロールできていない場合は、インプラント手術を受けることができません。内科の主治医とご相談ください。問題なければ手術は可能です。
●腎臓病の方
腎臓病の方は免疫力が低く、傷が治りにくく感染にも弱いためインプラントの治療は避ける方が良い場合があります。麻酔にも注意が必要です。
また人工透析を受けている方は、血液を固まりにくくする薬を服用されているため血が止まりにくいリスクや骨がもろくなっているためインプラント体と骨の結合がうまく進まないことも治療をおすすめできない理由のひとつです。
参考文献:
多くの薬物は排泄経路を腎に依存しているため,麻酔法と麻酔薬の選択に当たっては,手術に対して必要にして十分な麻酔法を選択し,麻酔薬の過剰投与は避ける.
横山和子ー日本医科大学付属第一病院麻酔科
「維持透析患者の麻酔-第42回日本透析医学会カレントコンセプトより-」
●肝臓疾患の方
重度の肝臓疾患の場合、
インプラントの手術の血が止まりにくい、傷の治りが悪いことや
インプラントの手術の前後に服用する薬が肝臓に負担をかけるため、
肝臓病の方はインプラントの治療はおすすめできません。
●重度の骨粗しょう症の場合
重度の骨粗しょう症の場合は骨の密度が低下しているため、
インプラントができない場合があります。
軽度の場合は、主治医に相談して許可が出れば、インプラントが可能なこともあります。
●その他 歯周病の方
歯周病の進行度合いによってインプラントの定着状態が異なるため、
事前のチェックが重要です。
歯周病のままインプラントの治療を行うと、
インプラント周囲炎(インプラントの歯周病)にかかりやすく、
インプラントの周囲の歯ぐきやあごの骨が破壊され、
インプラント体が抜けてしまう可能性があります。
事前に歯周病の治療をしっかり受けることが必要です。
治療の期間が長くかかる
インプラントの治療は、あごの骨とインプラントがくっつく時間が必要であるため、
他の歯を失った時の治療(ブリッジ、入れ歯)と比べると長くかかります。
- 上あごで5ヶ月
- 下あごで3ヶ月ほどの期間が必要
※インプラントの手術自体は日帰りで行うことができます。
ただし、インプラントは他の治療よりも耐久性が高く、
メンテナンスをしっかりすれば、治療後40年以上もつケースもあります。
参考文献:
上顎の上部構造装着後累積生存率は10年で96.1%であった.また下顎の2年累積生存率は100%であったが、10年では90.1%であった.10年経過を想定したKaplan-Meier法では,上顎96.4%,下顎94.0%,全体で94.6%であった.
荒川 光、窪木 拓男、完山 学、園山 亘、小島 俊司、矢谷 博文、植野 高章、高木 慎、菅原 利夫、真野 隆充、松村 智弘(2002年3月)
治療費が高く金銭的な負担が大きい
インプラントは、自費の治療のため、費用が高額になります。
ブリッジや入れ歯は、保険適用の治療で受けることもできるので、
治療費用を抑えることができます。
ただし、
- ブリッジや入れ歯は作り直す必要があったり、
- 周囲の歯に負担がかかる
- 噛みにくい
などの欠点もあります。
それぞれの治療にメリット・デメリットがあるため
総合的に判断されることをおすすめします。
インプラントが定着しない場合がある
インプラントの治療を施術する前にあごの骨の状態も含め、
口腔内の検証をし、治療を行いますが、
稀に(約1%ほど)インプラントと骨が定着しない場合があります。
これは、どの歯科医院でも、当院でもおこり得ます。
その理由としてインプラントがくっつく前に、
大きな力がかかったり、菌の感染や喫煙などの原因が挙げられますが、
再度インプラントを埋める手術を行うことで対処します。
当院では、このようなケースの場合、無償で対応いたします。
術後の感染や治療後のインプラント周囲炎のリスクについて
インプラントの治療は歯ぐきを切開するため、
細菌の感染を引き起こすことがあります。
このような術中の感染は、
器具の滅菌、使い捨ての器具やグローブなどで未然に防ぐことができます。
術後は、手術して終了というわけではなく、
インプラントも天然の歯と同様に歯周病になる可能性があります(インプラント周囲炎)。
これは入れ歯やブリッジの治療の場合も同じです。
毎日のメンテナンスが不十分であると、
歯ぐきの境目から細菌が入り込んできます。
インプラントの歯周病が重症化すると、
あごの骨がすこしずつ溶け、やがてインプラントがグラグラし始めます。
歯周病、インプラント周囲炎にならないよう、日々清潔に保つために
ご自宅でのケアと歯科医院での定期的な検診と
クリーニングでトラブルを防ぐことが必要です。
金属アレルギーが起こるかもしれない
金属をあごの骨の中に入れるため、
「金属アレルギーは大丈夫なの?」と思われる方もおられるかもしれません。
インプラントの土台の金属は「チタン」が使用されており、
ペースメーカーや人工関節などに用いられる身体に親和性の高い素材です。
金属アレルギーがある方でも基本的には問題なくインプラント治療をうけることができます。
インプラント体によってチタンの純度の高さの違いがあるので、
治療を受ける歯科医院がどのようなメーカーのものを使っているのか確認した方がよいでしょう。
インプラントは本当にやめておいた方がいいのだろうか…
「20年以上経過したインプラント患者のアンケート調査」です。
「インプラントの治療の満足の理由と不満の理由を教えてください」の質問に対して、
満足の理由は「なんでもよく噛めること」の50%で最も多く、
不満の理由は「費用」の約34%が最多です。
続いて歯茎が腫れるなどのトラブル(16%)が続きます。
参考文献:
ー満足の理由としては「何でも良く噛める」50%で最も多かった。不満の理由としては「費用」34%で最多であったー
森永 太,伊藤 隆利,阿部 成善,添島 義樹,土屋 直行,松井 孝道,飯島 俊一,川口 和子(2018年6月)
また「あなたは現在インプラントにどの程度、満足していますか?」の質問についてのグラフです。
出典:公益社団法人日本口腔インプラント学会「データでみるインプラント」
トラブルの報告がある一方で、
実際インプラントの手術を受けられた方の印象は、満足度が高く、人に勧めたいなどの検証もあります。
インプラントのメリットとデメリット
メリット
- 残っている歯(健康な歯)に負担をかけない
- しっかり違和感なく噛むことができる
- 自身の歯のように歯磨きができる
- 自然で美しい口元に仕上がる
- お手入れすれば10年以上使用できる
デメリット
- 治療費が高額である
- 治療が長い
- 天然の歯と同様にケアしないと歯周病になる可能性があり抜けてしまうことがある
- 手術が必要
インプラントでのトラブルや相談について
インプラントの手術のあと骨粗しょう症の薬を服用しているのに手術を行い、
「あごの骨が腐食」「痺れがとれない」
「インプラントを入れたあと、グラグラし始め、今は大学病院で診察を受けている」など国民生活センターに様々な相談が寄せられています。
これらは、
- 治療前の全身の状態が把握されていない
- 歯科医師の技術、知識が十分ではない
- 治療後の不具合の対応が不適切である
- 日頃の口腔内のお手入れや定期検診の必要性を知らされていない
などが原因で、
歯科医師が患者様へ「おこり得るリスク」や「メンテナンスの必要性」などをしっかり説明し、意思疎通を十分に行っていれば、ほとんどが事前に回避できることが多いと思われます。
インプラントの治療のメリット・デメリットを知り、納得して治療を受けることは、治療を成功させるために重要な要素です。
参考文献:
独立行政法人国民生活センター(平成31年3月14日)
他の治療方法(ブリッジや入れ歯)とメリット・デメリットを比較すると…
歯を失った時は、「インプラント」「ブリッジ」「入れ歯」の3つが主な治療方法です。
それぞれにメリット、デメリットがあります。
最も大きなメリットは入れ歯やブリッジとは異なり、周りの歯に負担をかけません。
インプラント、ブリッジ、入れ歯を比較してみると…
インプラント | ブリッジ | 入れ歯 | |
---|---|---|---|
安定性 |
◎
・安定性がある |
△
安定性はあるが限界がある(7〜8年) |
△
調整や作り変えの必要がある |
違和感 |
◎
違和感なし |
◯
ほぼ違和感なし |
×
違和感・異物感あり |
咬合力 |
◎
天然歯と同様に噛める |
◯
ほぼ天然歯と同様に噛めるが、過度な負担は加えられない |
×
・噛む力は劣る |
審美性 |
◎
優れている |
◎
優れている |
×
劣る |
歯への影響 |
◎
全く無い |
×
隣接する健康な歯を削る必要がある |
×
歯を削る事はないが、バネをかけている歯などへの負担が大きい |
治療本数 |
◎
多くても可能 |
×
欠損数が多いと不可能 |
◎
多くても可能 |
手術 |
×
外科手術が必要 |
◎
必要なし |
◎
必要なし |
治療期間 |
×
2ヶ月〜1年期間必要 |
△
比較的短時間 |
△
比較的短時間 |
経済性 |
×
保険適用外 |
◯
保険適用可能 |
◯
保険適用可能 |
インプラント | |
---|---|
安定性 |
◎
・安定性がある |
違和感 |
◎
違和感なし |
咬合力 |
◎
天然歯と同様に咬める |
審美性 |
◎
優れている |
歯への影響 |
◎
全く無い |
治療本数 |
◎
多くても可能 |
手術 |
×
外科手術が必要 |
治療期間 |
×
2ヶ月〜1年期間必要 |
経済性 |
×
保険適用外 |
ブリッジ | |
---|---|
安定性 |
△
安定性はあるが限界がある(7〜8年) |
違和感 |
◯
ほぼ違和感なし |
咬合力 |
◯
ほぼ天然歯と同様に咬めるが、過度な負担は加えられない |
審美性 |
◎
優れている |
歯への影響 |
×
隣接する健康な歯を削る必要がある |
治療本数 |
×
欠損数が多いと不可能 |
手術 |
◎
必要なし |
治療期間 |
△
比較的短時間 |
経済性 |
◯
保険適用可能 |
入れ歯 | |
---|---|
安定性 |
△
調整や作り変えの必要がある |
違和感 |
×
違和感・異物感あり |
咬合力 |
×
・咬む力は劣る |
審美性 |
×
劣る |
歯への影響 |
×
歯を削る事はないが、バネをかけている歯などへの負担が大きい |
治療本数 |
◎
多くても可能 |
手術 |
◎
必要なし |
治療期間 |
△
比較的短時間 |
経済性 |
◯
保険適用可能 |
患者様それぞれお口の状態も治療に対する希望も異なります。
それぞれの治療の特徴を知り、ご自身に合った治療を選択することが大切です。
インプラントの治療は自分にとってどうなのか?
判断するポイント
「インプラントを入れる方がいいのか」
「やめたほうがいいのか」、
自分にとって最適な治療かどうかを判断するには
次の点を意識すると、求めているのはどんな治療であるのか明確になってくるかもしれません。
- 治療の目的と価値観(見た目、耐久性、費用など)
- 他の治療との比較(入れ歯・ブリッジなど)
治療の目的と価値観は何だろうか
ご自身が治療に対してどのような点を重要視しているのか、
優先順位に合わせて治療を選択するのが大切だと思います。
- 治療が高額でも長期間使える歯にしたい
- 費用を安く抑えたい
- 自然な見た目で綺麗にしたい
- 歯を残したい
患者様がどのような治療を求めているかで、最適な治療は異なってきます。
他の治療方法と比較して、どれが自分に合っているかを考える
歯を失った時の治療方法はインプラントの他に入れ歯やブリッジなどがあります。
インプラントは周りの歯に負担を与えない良い治療ですが、
患者様が求められている治療ではなく、他の治療がよい場合もあります。
しかし、「他の治療よりも良い結果」を得られることもあります。
歯科医の技術によっても結果が変わってくることも
インプラントの治療は外科処置を含む専門性が高い分野であるのに関わらず、
インプラントの治療は歯科医師免許があれば治療できます。
インプラントの治療はどこで治療しても同じ結果になるわけではありません。
インプラントの治療は患者様の口腔内のみならず、
体の疾患、服用している薬など全身の状態の把握が必要です。
より良いインプラント治療を受けるためには、
歯科医師の選択が重要であり、専門的な知識や技能、治療の経験が必要です。
インプラントの技術があるかどうかの判断の目安の一つとして
現在も継続している手術の実績数、インプラントの技術を学び続けているかが押さえておくべき点です。
また歯科医師の技術も大切ですが、信頼関係を築けるかどうかも重要です。
実際に歯科医院へ出向き、相談の上、信頼できる歯科医師かどうかを確認いただくことが、
結果的に満足行く治療に必要だと思われます。
治療をする前に知っておきたいこと5選
インプラントの治療はインプラントを埋入して終わりというわけではなく、
天然の歯と同じようにメンテナンスが必要です。
インプラントはむし歯にはなりませんが、歯周病(インプラント周囲炎)になります。
インプラント周囲炎になると、あごの骨が少しずつ溶けていき、やがてインプラントがグラグラし始めます。
また
大きな力が加わったり、寝ている時に無意識にしている歯ぎしりは、インプラントや支えているあごの骨に負担がかかり、歯の部分として見えている被せ物の部分やインプラント本体が破損する場合があります。
当院では治療を受けていただいた方へ5年間の無償保証をしております。
▶︎保証について
歯科大学ではインプラントはほぼ学ばない
数年前から歯学生のカリキュラムに「口腔インプラント学」が加わりましたが、大学によってばらつきがあります。また治療の実習は歯科大学の約半数でしか行われていません。
インプラントは適切な治療を受ければ、優れた機能を果たしますが、知識や技能が不足した歯科医師で治療を行った場合、トラブルにつながることになりかねません。
歯科医院と歯科医師の実績をよく調べ、一度会って話をして慎重に歯科医師のもとで治療を受けられることを強くおすすめしたいと思います。
インプラントも天然の歯と同様にメンテナンスが必要
先ほどもお話ししたようにインプラントは埋入して終わりというわけではありません。
天然の歯と同じくインプラントも歯周病にかかる可能性があります(インプラント周囲炎)。
インプラント周囲炎にかかってしまうと、インプラントを支えている骨が細菌の感染で少しずつ溶けて、インプラントが露出して抜けてしまうことがあります。
歯周炎の心配だけではなく、お口の中は常に変化するため、
インプラントを長くもたせるためにも、そして残った歯を守るためにもメンテナンスを続ける必要があります。
- 噛み合わせ、
- インプラントの部位の点検、
- 周りの歯の歯周検査や清掃など
治療のゴールをしっかりと歯科医師と話さないといけない
インプラントの治療は専門的な知識や0.1mm以上の精度を求められる技術が必要なことはもちろんですが、
- 歯ぐきの形
- 笑った時に歯がどのように見えるのか
- お顔全体と歯のバランス など自然で美しい口元を実現するセンスも必要です。
患者様にとって大切なことは、長期的にインプラントが使用できる、しっかり噛める、そして自然で周りの歯と違和感がない口元に仕上げることが大切です。そのような仕上がりのことも、ぜひインプラントの治療の前に相談してください。
インプラントする歯以外も考えないと良い治療はできない
インプラントは失った歯を補うための治療ですが、インプラントを入れるだけではなく、お口全体の調和をとることも重要です。
インプラントを埋める位置や角度、噛み合わせる面のこと(咬合面)などを考慮し、総合的にお口全体のバランスをとる必要があります。
噛み合わせが適合していないと噛む力が低下したり、インプラント周囲炎になりやすかったり、インプラントの破損などの問題が生じる可能性があります。
すると
長期的に安定してインプラントを使用することができません。
インプラントを行う前には、あごの骨の状態、噛み合わせ、残っている歯のことなどを十分に考え、適切な治療計画を立てる必要があります。
どんな治療にもメリット・デメリットがあります。
インプラントに限らず、どんな治療でもメリット・デメリットがあります。
治療のメリット・デメリットやリスクを知っていただいた上で、患者様に治療法を選んで頂くことが大切だと考えています。
是非、お口全体のことも含め事前にしっかりと歯科医師に相談し、デメリットやリスクもしっかり確認して下さい。